2008年12月3日水曜日

■フリージア(二)

「フリージア、ください」
「はい、何本?」
「さ、三本…」
「三本ね。家に飾るの?」
「いえ、あの、母の誕生日プレゼントに…」
「あらまぁ!そうだったの。じゃぁリボンつけないとねぇ」
「…」
「何色のリボンがいいかしら?」
「リボンに幾らかかるんですか?」
「え?」
「あの、お金に余裕がないんです」
「あらまぁ、そうねぇ、サービスってことでどう?」
「ありがとうございますっ!」
「できるだけ大きくきれいに見せなくちゃね。黄色いリボンでどう?」
「はい、お願いします」
 私は、たったそれだけのやりとりで、すでに涙が出そうになっていた。花屋のおばちゃん、ありがとう。口には出せなかったけれど、私は何度も心の中でそう言っていた。
 あと残りの不安は。一番の不安は。母が受け取ってくれるかどうか、だ。私は帰りの電車の中、ただひたすら、その不安を胸に抱き、じっと黙って一点を見つめていた。母の無視は強烈で、それをされると私は一番傷つく。そのことを母も知っている。知っていてそれでも母は無視をする。さもなければあからさまな拒絶をする。この花を買っていったとして、果たして母は無事に受け取ってくれるだろうか。喜ばないまでも受け取って花瓶に生けてくれるだろうか。私はもう、ただひたすら祈るような思いで家に辿り着いた。

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