2008年12月6日土曜日

■フリージア(四)

 それからのことははっきり覚えていない。もしかしたらもう少し母と会話をしたのかもしれないし、しなかったのかもしれない。フリージアが何処に飾られたのかも私は正直覚えていない。でも。
 母が私の贈り物を拒絶することなく受け取り、ありがとうと言い、笑顔まで見せてくれたそのことを、私は決して忘れることはない。
 考えてみれば、私は母を求めて求めて求めてやまない子だった。母とすれ違えばすれ違うほど、母を求めた。母に拒絶されればされるほど本当は母を求めた。ただ、私たちは不器用すぎて、お互いの気持ちを素直に受け容れることができなくて、相手を思えば思うほど愛情というボタンを掛け違えてしまった。

 今、母も七十近くになり、大きな病を患っている。気弱になっているのか、昔のように拒絶したり無視したりすることは、あまりなくなった。それでも私たちは時折、すれ違ってしまう。でも私は諦められない。
 それは。あの日見た母の笑顔のせいだ。あれは単純に花に向けられた笑顔だったのかもしれない。けれども、その花を運んだのは、私だった。私の花を、母は受け取ってくれたのだ。たった一回きりであっても、笑顔で。
 だから私は諦めない。どんなに拒絶されても無視されても、私は母を諦めないでいられる。あの笑顔をもう一度、もう一度でいいから私は見たい。そう願い続けている。

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