2008年11月11日火曜日

■こんな時はいつもよりいっそう強く

 天気予報は曇りのち雨。六時を過ぎても薄暗い。雲の向こうに陽光の気配はあまり感じられず。常緑樹の街路樹の枝々が、南東からの風にゆらゆらと揺れている。
 そういえば、今年もそろそろ街路樹の枝おろしの時期だ。毎年11月下旬にそれは行われる。その後はこんなふうに風に揺れる枝や葉の姿も見られなくなるのだと思い出したら、なんだか目が離せなくなった。風の気配。枝の描く妙線。葉の啼く音。
 いつもより早起きした娘が何かを思い出しながら指を折っている。何を数えてるのと尋ねると、昨日ちゅーした回数、と答えが返ってきた。で、何回ちゅーした? うんとね、五回かな。…五回もちゅーしてるのか、ちょっと多いね。多くないよ、全然、もっとちゅーしたいもん。なんでそんなにちゅーしたいの? わかんないけど、ママの顔見てるとちゅーしたくなる。…そうなんだ。ママはしたくならないの? うーん、ママは…ちゅーしなくてもちゅーしてるような気分だから。何それ? うーん、つまりさ、ママはいつでもあなたのことを考えているってことだよ。
 せっかくだからと今日は娘と一緒にプランターを覗く。毎日覗いている私にはそんなに変化があるように思えなくても、時々しか覗かない娘にとっては大きな変化がそこにある。うわぁママ、これは赤ちゃんの手だねぇ。ラナンキュラスだよ。これはひげ、うーん、違った、トゲだ。ムスカリだね。これ、あかんべぇしてるみたいだね。それねぇ今年初めて植えたイフェイオンだよ。なんかかっこわるいよ。確かにね、かっこ悪いね。べろべろべろーん。ははははは。
 朝のひとときはあっという間に過ぎる。その時娘が言った。
 ねぇママ。今年サンタさん、何人来てくれるの? え? サンタさんだよ。サンタさんって一人だよ。違うよ何人もいるんだよ。なんで? ゆかりちゃんが言ってた。おじいちゃんサンタ、おばあちゃんサンタ、パパサンタ、ママサンタ、おじちゃんサンタ、おばちゃんサンタ、でね、ゆかりちゃんのところは四人は少なくとも来てくれるらしいよ。…あらまぁ。いいなぁ、うちはママサンタ一人だけじゃん。うーん、本物サンタも来るよ。何処から? 空から。じゃぁうちには二人? うーん、そういうことになるねぇ。つまんない。…。もっとサンタさん来てくれればいいのに。そうだねぇ。パパサンタとかさぁ。…そうだねぇ。まぁうちは、ママがママパパサンタだからしょうがないのか。何だそれ。ふふーん。
 それだけ言うと、娘はさっと部屋の中に戻り漫画を読み始める。
 私は。
 私はベランダから身を乗り出し、街路樹たちをふわりと眺める。枝よ揺れろ、葉よ泳げ、こんな時はいつもよりいっそう強く。

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