2008年11月26日水曜日

■ルバーブのジャム作り(一)

 高校の頃、毎夏お遊びセミナーで野尻湖へ行った。お遊びセミナーだから、何をやってもたいていのことは許される。私は一人、野尻湖の周囲を散歩したり、野尻湖で泳いだりして時間を過ごすのが好きだった。
 二度目の夏のことだったと思う。私が野尻湖の周囲をてくてく歩いていたら、前方の茂みが揺れている。何だろう、どきどきしながら近づくとほぼ同時に、人が飛び出してきた。私たちは勢いよくぶつかった。
「おお、ごめんなさいね」
 彼女は外国人で、この近所の別荘に住んでいるのだという。彼女の腕には沢山のフキのようなものが束ねられていて、私はその行方が気になった。彼女の誘いに乗って、一緒に彼女の家にお邪魔することにした。
「それは何ですか?」
「あら、知らないですか?」
「はい」
「ルバーブといいます」
「ルバーブ…」
「これからルバーブのジャムを作ります。よかったら見ていきませんか?」
 ルバーブという茎の筋を彼女は丁寧にとってゆく。取り終えると五センチ程度の長さにざくざく切り、大鍋に入れてゆく。そして次に砂糖。ひとつかみの砂糖を鍋に入れると、彼女はとろ火で鍋を温め始めた。
「これでしばらく置いておきます。その間にお茶にしましょう」
 彼女が用意してくれたのはカモミールティとルバーブジャム入りのクッキー。当時の私にとっては初めてのものばかり。恐る恐る手を伸ばす。お茶を口に含むと、ほんのりした香りが口の中に広がった。そしてクッキーを齧ると、甘酸っぱい味が飛び込んできた。
「おお、少しずつ少しずつ食べてくださいね。すっぱいでしょう?」
 彼女は私のびっくりした顔を見て笑いながらそう言った。でもそのすっぱさは、決していやなすっぱさではなく、懐かしさを誘うすっぱさだった。
「私の故郷はイギリスです。私の故郷にはルバーブは沢山ありました。だからみんな、季節になるとルバーブを摘んでジャムを作るのです。何処の家にもそれぞれにレシピがあって、受け継がれてゆくのです。我が家のジャムは、お砂糖をできるだけ少なめにしてルバーブの酸味を生かしたレシピなんですよ」
 彼女は流暢な日本語でそう説明してくれた。

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