2008年11月2日日曜日

■今頃部屋ではアオツメクサが咲いている

 朝一番に娘と自転車で街を走る。昨日のあの重たげな雲は何処へいったのやら、今朝は冷えてはいるがとても気持ちのいい空だ。自然、漕ぐ足も軽やかに動く。
 昨日嗅いだ銀杏の匂いを思い出し、娘と共に並木の下に行く。娘が途端に悲鳴を上げる。
 何この匂い。
 ギンナンの匂いだよ。ほら、ここに落ちて潰れてるのがある。
 この匂いキライィ。
 ふふ。まぁ好きな人はあんまりいないよね。でも。
 でも、なぁに? ママは好きなの?
 好きってわけじゃないけど。秋の終わりを教えてくれる匂いだよ。
 うーん。でも、この匂いヤダ。
 ふふふ。

 私たちは海の公園まで走り、ひとしきり小さな飛沫をあげる波を眺め、家路につく。
 途中、ふと鮮やかな青色を道端に見つける。アオツメクサだ。もう少しで見落とすところだった。私たちは自転車を止め、一輪二輪、摘んでみる。もったいないからこれだけね、と視線を交わし、ふふふと笑って再び自転車を漕ぐ。そろそろ時間だ。

 週末娘はたいてい私の実家へ遊びに行く。決まった時間に電車に乗せないと、実家から電話がかかってくる。待ち侘びているのだ、じじばばが。
 ほら、髪の毛結って。歯磨いて。支度はできたの? 娘を急かしながら私はたびたび時計を見やる。そろそろ電話が鳴る。その前に家を出ないと。
 ママ、準備できた! 娘のその声で玄関を二人して飛び出す。休日の朝からなんでこんなに急いでるんだろうねと苦笑いしながら、私たちは駅までの道を走り出す。
 ねぇママ。夜にはちゃんと電話ちょうだいね。うん、わかった。絶対だよ。うん、約束。じゃぁね、ママもいってらっしゃい。じゃぁまたね。
 電車の窓越し、お互いに姿が見えなくなるまで手を振り合う。しばしの別れ。私は仕事場へ向かう。

 今頃部屋では、アオツメクサがひっそりと、咲いている。

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