2008年11月21日金曜日

■裏山

 最後に通った小学校の裏には、小さな山があった。近所の人たちはみなそれを、裏山裏山と呼んでいた。人の手が殆ど入っていない、放置された域だった。
 そのせいだろうか、私はその山に分け入って一人で時間を過ごすことがとても好きだった。
 人影は何処にもない。いるのは野鳥や虫ばかり。道らしい道などないから、木々の枝々を手で抑えながら奥へと進む。途中、季節になると、あけびや柿の実、ぶどうの実などがあって、それらを適当に摘んで進む。そうしててっぺんに行くちょっと手前に、腰掛けるのにちょうどよい太さの枝があり、私はその枝を自分の場所にしていた。
 その枝に座って、ただ時間を過ごす。空想癖のあった私には、たまらない場所だった。枝に座って幹に寄りかかり上を見上げると、枝の間からちょうど空がぽっかりと丸く見えた。雲の流れる様もそこからなら色濃く手に取るように見て取れた。いくら時間があっても足りないくらいに、その場所は居心地がよかった。
 或る時はリコーダーを持って、或る時は日記帳を持って、私はひとりでそこへ通った。そして好きなだけリコーダーを吹き、好きなだけ日記帳にあれやこれやを書きとめ、私はひとり笑ったり悲しんだりしていた。私が、ひとりでいられる時間がこんなにも楽しいと知ったのは、この裏山でだった。(続)

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