2008年11月15日土曜日

■ネガは楽譜、プリントは演奏

 銀鼠の雲が空一面を覆っている。
 どうしたことだろう、窓を開けても全く寒くない。ぬるい。この季節になんでこんなにぬるいのだろう。なんだか気持ちが悪い。
 昨夜は少し写真の整理をしていた。昔焼いた状態とは今気持ちが違っているものについては分けてみた。結構な量になる。
 「ネガは楽譜、プリントは演奏」と言ったのは誰だったか。その主の名前は忘れてしまったが、この言葉は決して脳裏から薄れることはない。
 いろいろな写真を見て回ったが、自分のような写真を作る人がいないことを、最近痛感する。つまり、写真の基本はネガに忠実に焼くことであって、私のようにネガとプリントとがまったく別物になることはない。写真界に生きる人たちから「写真の基礎に忠実に!」と再三言われた。しかし、私の気持ちが別の方向に動くのだから、もうこれは仕方がない。
 私はネガを版画の版のように用いる。ネガを用いて版を用いて、新たな像を印画紙に浮かび上がらせる。白く白く飛ばすときもあれば、黒く黒く焼きこむこともある。つまりそこで、いらない像を消し、いらない像を潰す。それだけのこと。
 必要なものだけしか印画紙の上には残らない。私はそれをよしとしている。それだけの話。
 独学で写真を始めたのは11年前のちょうどこの時期だった。最初はただ「焼く」、ただ「プリントする」ことしかしなかった。ネガの像が印画紙に忠実に浮かび上がることが面白かったからだ。
 でも今は違う。ネガの情報から、今の私に必要な部分だけを切り取って、それをプリントする。だからどうしても、「写真の基本」「写真の基礎」からは外れてゆく。
 昨日は疲れてそれ以上の作業ができなかった。今夜にでも作業しようか。現像液のあの独特の匂いが、私は結構好きだ。なんとなく、今ならまた新しい写真を作れそうな気がする。

 徐々に徐々に雲の向こうが明るくなってゆく。けれど雲はこれっぽっちの隙間もなく空を埋め尽くしている。こんな空を見上げると、私は窒息しそうになる。

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