2008年11月27日木曜日

■ルバーブのジャム作り(二)

 じきに、大鍋がぐつぐつぐつぐつ音を立て始めた。彼女は、大きな木べらでそれを丁寧にかき回してゆく。ゆっくりゆっくりかきまわす。
「ここでずるをしてはいけません。じっくりゆっくりルバーブがやわらかくなるのにつきあうのです」
 彼女はそう言って、ひたすらゆっくり、ゆっくり、鍋をかき回している。私はその様を眺めがなら、クッキーをまた一口齧る。
 どのくらい時間が経っただろうか。彼女が、さぁそろそろですよ、と言った。鍋を覗くと、繊維質に溢れたルバーブが、とろりんとやわらかくなっている。摘んだときの色味から少し沈んだ色になって、彼女の木べらのリズムに合わせて鍋の中を回っている。
「瓶をとってくださいな」
 そう言われて棚を見ると、ジャム入れにはちょうどいいだろう大きさの瓶がずらりと並んでいた。私はそれをひとつずつ彼女の手元に並べていく。
「さぁ、これでできあがりましたよ」
 彼女は実に丁寧に瓶の中にジャムをつめてゆく。きゅっと音が出るほどきつく蓋を閉め、さらに彼女は何か細工した。そのことを私は思い出せない。
「さっきぶつかってしまったお詫びです。おひとつどうぞ」
 彼女ができたてのルバーブのジャムを私に渡してくれた。
「あの。お願いがあるんですが」
「なんでしょう?」
「私、明後日の午後に帰らなければならないんですけど、明日、ルバーブを摘んでみたいんです。場所とか教えてもらえませんか?」
「おお、いいですねぇ、それでジャム作りしますか?」
「はい、家に帰ってぜひ。だからその、ルバーブが生えているところとか教えていただけると嬉しいんですが…」
「もちろん。じゃぁ明日、約束しましょう」
 翌日、私たちは待ち合わせ場所に二人とも早く着いた。そして、彼女の案内で茂みに入り込み、これがルバーブだというものをぽきぽき適当な長さに折っていった。あっという間に片腕に余るほどのルバーブを摘むことができた。きっとここは、彼女の秘密の場所だったんだろう。何故なら、昨日、この辺りのルバーブはだいぶ少なくなってきたと寂しげに話していたから。こんなに豊富にある場所は、間違いなく彼女の秘密の場所だったに違いない。
 そのままお礼を言って別れるつもりだった私を彼女は引きとめ、お茶に誘ってくれた。彼女の家に行くと、今度はミントティとルバーブのクッキーが用意されていた。
 私が一口ずつ大事にクッキーを齧っていると、彼女は昨日書いておいたんだというレシピのメモを私に渡してくれた。それからしばらく、私は彼女の故郷の話を聞きながら過ごした。気づいたら夕日が西の地平線に落ちてしまっていた。
「ありがとう。家に帰ったら早速作ってみます」
「あなたはまたここに来るのかしら?」
「はい、来年もこの時期にくると思います」
「来年…。もしそのとき私がここにいたら、ぜひまた一緒にルバーブを摘みましょう」
「はい!」
 彼女はにっこり笑って右手を差し出した。私も右手を差し出し、ぎゅっと握り合った。思ってもみなかった出会いを、ルバーブは呼んでくれたのだった。

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