あれから数年、夏になるごとに彼女と文通した。私が高校を卒業して野尻湖に行くことがなくなっても、夏になるとルバーブの話を手紙でやりとりした。
或る年、彼女からの手紙が先に届いた。「今年、故郷に帰ります。母の具合が悪いそうです。もう年老いた母を一人にしておくことはできません。あなたに会えなくなるのは寂しい。でも、ここのルバーブはあなたのものです。いつでも取りに来て、またジャムを作ってください」。
以来私は、彼女とは会っていない。
でも。
私の手元には、彼女が残してくれたルバーブのジャムのレシピがある。ルバーブの茂みがある。日々開発が進んで、いつこの茂みもなくなってしまうか分からないけれども、今はまだ残っている。
近いうち、娘を連れて私はあの場所へ行くだろう。娘に摘み方を教え、ジャムの作り方も教えるだろう。異国の友達に思いを馳せながら。
コツは、短気を起こさないこと。ひたすらゆっくりじっくり煮つめること。筋だらけのルバーブだからこそ、ゆっくりじっくりが肝心なのだ。そしてルバーブの酸味を生かすなら、砂糖はひとつかみで十分。
彼女が言っていたことを思い出す。「いいですか? これは我が家のレシピです。だから、あなたはどんどんアレンジして、自分の味を作ってください。それがあなたのレシピになります。ね?」。
私が私のレシピを作ることができたら、それを娘に伝えることができるだろう。そして娘は娘で、新しいレシピを作るのかもしれない。そうやって、人から人へ、伝えられてゆく。甘酸っぱいルバーブのジャム。連綿と続く人の手の技と想い。
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